働き方改革は、スタッフ・利用者の「意識改革」から
2023.2.21(火)
フリーライター 西岡一紀
休日も電話応対に追われるケアマネ
ある居宅介護支援事業所では、1人の利用者を「メイン」「サブ」の2人のケアマネジャーが担当するというユニークな仕組みを導入しています。事業所の代表者は「ケアマネの働き方改革」を理由に掲げます。
ケアマネの元には、担当する利用者や介護事業者から日々沢山の電話がかかってきます。そのため、夜間や休日でも業務用の携帯電話を持ち歩くことが少なくありません。これでは休日と仕事の区別が曖昧になりますし、有給休暇の取得もままなりません。自分が不在のときに代わりに担当するケアマネがいることで、安心して休めます。実際に、この事業所ではケアマネは業務用携帯電話を事務所に置いて帰宅する決まりで、オンとオフが明確に区別されるようになっています。
「私でなければならない」のか
近年、様々な業界で、ワークライフバランス改善や働き方改革の動きが盛んです。しかし、正直なところ介護業界ではその動きは鈍いようです。理由には、慢性的な人手不足で1人当たりの仕事量が多すぎること、働き方改革のカギとなるICT機器の導入が進んでいないことなどがあるでしょう。それに加えて、自身もケアマネであるこの事業所の代表者は、「ケアマネの多くは『私が最後まで担当するべき』『自分でなくてはならない』という『使命感』『責任感』があります。こうした性格も大きな理由ではないでしょうか」と指摘します。
もちろん、自分の仕事に責任感を持つことはとても大事です。しかし、将来ケアマネが自身の健康や家族の事情などで、その利用者を担当することが難しくなるかもしれません。その点をケアマネも事業者も想定する必要があるのではないでしょうか。
利用者の不安解消を
こうした体制を導入するには、利用者側の十分な理解も必要です。この事業所の代表者が起業前に勤務していた居宅介護支援事業所では、一部のケアマネが退職して全利用者の対応が難しくなったことがありました。そこで一部の利用者を同じ法人の別の居宅介護支援事業所に変えようとしたところ「自分のことをよく知らないほかのケアマネは嫌だ」と拒否をする利用者が多くいたそうです。そうした経験から、今の事業所では、サブのケアマネは「当人には必ず一度会いに行く」「月に1回・3分以上電話をする」ことをルール化しています。こうして、利用者にも「担当のケアマネでなくても大丈夫、話を聞いてくれるので安心」という意識を持たせることができます。
このように、ケアマネに限らず介護業界の働き方改革を進めるには、職場としての仕組みや体制の整備だけでなく、スタッフ・利用者双方の意識改革が重要になります。スタッフには「休むこと=利用者を軽んじることではない」という考え方を持ってもらうことが、介護人材不足解消のきっかけのひとつになるのではないでしょうか。
〈補足〉サブケアマネの業務内容は、メインケアマネの不在時の問い合わせ対応などに限定されます。ケアプランの作成や月1回の訪問などはメインケアマネのみが担当します。

西岡一紀(Nishioka Kazunori)
フリーライター
1998年に不動産業界紙で記者活動を開始。
2006年、介護業界向け経営情報紙の創刊に携わり、発行人・編集長となる。
2019年9月退社しフリーに。現在は、大阪を拠点に介護業界を中心に活動中。