「現入居者家族が入居希望者を面接」
ドイツのユニークな高齢者コミュニティ
2023.1.24(火)
フリーライター 西岡一紀
2022年9月、ドイツのブレーメン市に介護・医療事情の視察に行きました。見学した高齢者施設の一つが非常にユニークな運営をしていたので、ここで紹介します。
認知症者の家族が非営利団体立ち上げ運営
8人の認知症高齢者が共同生活するシェアハウス「WOGE Bremen」は、既存の高齢者住宅の一部を間借りする形で2003年に開設されました。運営は、認知症の人を抱える家族が共同で設立した非営利団体の「WOGE」。もっともWOGE自体は財政も潤沢ではないことから、現在では、間借りする高齢者住宅が実質的な運営者です。
団体の代表者は「当時は、認知症高齢者が入居できる施設が非常に少なかったため、認知症者の家族が共同で運営しようと考えました。そうすることで24時間体制のケアが可能になります」と語ります。彼女は認知症の姉がもう12年もここで生活をしているそうです。
運営面で一番ユニークな点は、現入居者家族の代表者が新規入居希望者を面接し、さらに現入居者家族の投票で可否を判断することです。「良質なコミュニティ維持のための入居者向けルールを守れるかどうか」が大きな判断材料となるそうです。日本の高齢者施設でも運営懇談会など家族が運営に関わりを持つ機会はありますが、あくまで「意見を述べる程度」の立場であり、ここまで踏み込むケースは少ないでしょう。
もちろん、日本でもほとんどの施設で「問題なく共同生活を行えるか」という点は入居時に審査をしますが、基本は「施設側の目線・都合」です。「WOGE Bremen」のように「寝食を共にする入居者の目線」でそれを判断するのは非常にユニークといえます。
「一人でも多くの困っている当人や家族を救う」というのが福祉の考え方の基本ですが、それよりも定員8人という小規模で人間関係が密なコミュニティであること、また入居者が認知症という環境の変化に敏感な人が多いことから、ミスマッチなどによる入居後のトラブルを防ぎたいという意向の方が強いようです。この点は日本のグループホームなどの小規模なコミュニティでも参考になる考え方ではないでしょうか。
運営に関わる家族は全員ボランティア
また、入居者家族によって運営されてはいますが、入居に際して「家族がいること」は絶対条件とはなっていません。入居者家族として運営に関与している人の中には、実際には、いわゆる「雇われ家族」もいるそうです。
なお、ドイツの介護保険制度には家族など在宅のケアラーに対する「現金給付」がありますが、ここは対象外です。従って運営に携わる家族は全員無償で活動しています。入居費用は人によって違いますが、概ね月に2500ユーロ程度(約35万円)。このように、家族の時間的・金銭的な負担も決して少なくありません。これが結果的に「自分の親や兄弟姉妹のことを真剣に考える家族を集める」という結果につながっているとも言えます。

西岡一紀(Nishioka Kazunori)
フリーライター
1998年に不動産業界紙で記者活動を開始。
2006年、介護業界向け経営情報紙の創刊に携わり、発行人・編集長となる。
2019年9月退社しフリーに。現在は、大阪を拠点に介護業界を中心に活動中。