高齢者・障がい者の隠れたポテンシャル、介護職が発信を
2022.10.21(金)
フリーライター 西岡一紀
失語症患者がカラオケ披露
先日、失語症の人たちを対象にしたオンラインカラオケコンテストが開催され、全国からエントリーした21組が歌声を披露しました。
「失語症の人が歌を歌えるのか?」と思う方もいるでしょうが、コンテスト主催者の一人で自身も脳卒中が原因での失語症患者の男性によると「言語中枢があるのは脳の左側。その一方でリズムなどの音楽をつかさどるのは脳の右側なので、言語中枢を損傷した認知症患者でも歌うことは可能」とのことです。そしてこの男性は「歌うことによって損なわれた言語中枢機能が回復するのでは」と考え、週に1~2回、1人カラオケに行ってリハビリテーションをしているそうです。
手話を交えて歌っているシンガーソングライターの女性は、「聴覚に障がいを持つ人がコンサートに来てくれるが、彼らは本当に楽しんでくれているのだろうか」と日頃から疑問を感じていました。そこで、観客の一人に思い切って尋ねてみました。耳が全く聞こえないという男性の答えは「照明の動き、会場全体に響く振動、ほかの観客の動きなどで十分に『音楽』を楽しむことができます」というものでした。
全盲だが海外旅行が趣味という男性がいます。彼によると「全く知らない言語、匂い、食べ物の味、日差しや湿度などを通じて、目が見えなくても日本とは違う感覚を味わえます。海外旅行はとても楽しいです」とのことでした。
「○○できない」と考えがちだが
このように、障がいを持っている人たちは、身体の様々な機能を使って一般の人たちと同じ趣味やレジャーを楽しんでいます。そして、障がいを持っている人たちの多くは、障がいを理由に自分の楽しみを諦めようなどとは考えていません。
それに対して私たちは、障がいを持っている人や介護が必要な人、認知症の人などは「どうせ○○は出来ないだろう」「もう○○を諦めているだろう」と考えてしまいがちです。視覚障がいを持つアスリートは「障がい者というレッテルを張られた瞬間から、周囲から様々なフィルターを通して見られます。『視覚障がい者は、聴覚や嗅覚が優れている』などの、それぞれの経緯や能力の違いを無視したバイアスもその一例です」と、画一的な見方をされ、様々なことにチャレンジする機会が損なわれていることを残念がっていました。
介護・福祉職の皆さんは、高齢者や障がいを持つ人が、ときには私たちと変わらない、あるいはそれ以上の能力を発揮することがあるのを、日頃の仕事の中で身をもって体験していると思います。こうした人たちのポテンシャルの高さを広く発信することが、彼らが「本当に自分のしたいこと」ができる社会作りを促進し、結果として彼らの自立支援につながることになります。皆さんは、それができる立場です。プライバシーの問題もあり利用者の情報を発信するのは難しい面もあるでしょうが、是非とも心がけていただきたいと思います。

西岡一紀(Nishioka Kazunori)
フリーライター
1998年に不動産業界紙で記者活動を開始。
2006年、介護業界向け経営情報紙の創刊に携わり、発行人・編集長となる。
2019年9月退社しフリーに。現在は、大阪を拠点に介護業界を中心に活動中。