子連れ出勤OKの介護施設 育児と仕事の両立
2022.6.20(月)
フリーライター 西岡一紀
現在、介護現場で働く人の7割が女性といわれています。それだけに従業員に出産や育児などによるブランクが生じる可能性は、他の産業に比べてどうしても高くなってしまいます(もちろん、育児は男性もしなくてはなりませんが)。出産・育児と仕事の両立に向けた取り組みは介護業界の喫緊の課題といえます。その一環として介護事業所内に保育所や託児所を設置するなどの動きが活発化していますが、コスト面などを考えると、全ての企業で導入するのは難しいのが現実です。
スタッフの子どもの育児は施設皆で
昨年12月にオープンした大阪市内のサービス付き高齢者住宅では、スタッフの「子連れ出勤」を認めることで、仕事と育児の両立が可能な環境を整えています。定員数54という規模から考えれば、それほどスタッフが多いとは思えませんが、現在5人がこの制度を活用しています。子どもの年齢に関する条件などはありません。子どもたちの面倒は、ほかのスタッフが代わる代わる行っています。現場には育児経験が豊富なスタッフも多く、母親からは「安心して任せられる」と好評です。
また、これから結婚や出産を迎えるとスタッフの中には「育児は大変なのではないか」という不安を抱える人もいるかと思われますが、職場のみんなで協力して育児をする制度は、それを払拭させる効果も期待できそうです。
中高生が日常的に遊びに
さらに、このサ高住には、社長の高校生の子どもやその友人をはじめ、スタッフの子どもの中学生・高校生が頻繁に姿をみせます。中高生はレクリエーションのボランティアに来たわけでも、職場見学をするわけでも、アルバイトとして働くわけでもありません。学校帰りなどに「どこに遊びに行く?カフェ?カラオケ?ゲームセンター?」といったノリで「サ高住に行く」を選んでいます。
「館内にはカラオケがありますので、中高生はそれを楽しんだり、食堂でおしゃべりをしたりして過ごしています」と社長は語ります。「高齢者と一緒にカラオケで盛り上がろう」という気は本人たちにはなく、入居者とはあまりコミュニケーションを取らずに自分たちが好きな曲を歌って帰るそうですが、若い人たちが楽しそうに遊んでいる姿は、館内に賑わいをもたらし、入居者にとっても大きな刺激になるようです。
高齢者施設の中には、幼稚園・保育園児や小中学生が訪問し、様々な形で入居者と交流しているところも少なくありません。しかし、これらはイベントという「非日常」の出来事です。それに対して、このサ高住は、子どもたちが遊んでいるのが日常の風景の一部となっています。
核家族化が進んでいるとはいえ、入居者の中には孫と同居していたり、近所に住んでいる子どもたちと交流があったりと、若い人が身近にいるのが「日常」だった人も少なくありません。新型コロナウイルスの感染状況が落ち着きを見せている今、こうした日常感覚で多世代交流ができる環境づくりに会社・施設全体で取り組んでみてはいかがでしょうか。

西岡一紀(Nishioka Kazunori)
フリーライター
1998年に不動産業界紙で記者活動を開始。
2006年、介護業界向け経営情報紙の創刊に携わり、発行人・編集長となる。
2019年9月退社しフリーに。現在は、大阪を拠点に介護業界を中心に活動中。