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「現在の年収に満足」は3割。
労働組合の調査結果から考える「理想の処遇改善」とは?

2022.5.23(月)
フリーライター 西岡一紀

平均月収2年間で約2万円アップ

介護業界最大の労働組合であるUAゼンセン 日本介護クラフトユニオン(NCCU)が3月23日、「2021年賃金実態調査」の結果を公表しました。今回はこの結果を元に介護職員の所得状況やそれに対する満足度、そして、そこから見えて来る理想的な処遇改善のあり方について考えてみましょう。
給料日25日に印がつけられたカレンダー
調査は昨年8月∼10月にかけてNUUC組合員に調査票を配布して実施したもので、3069名が回答しました。このうち月給制で働く職員は2001人となっています。回答者の67.6%が女性で、現在の会社での勤務年数は5年以上が全体の63.5%となっています。
2021年8月の平均月額賃金は26万5216円で、2018年度の調査より約2万1000円上昇しています。これについてNCCUは「介護職員等特定処遇改善加算の影響が反映されたと言える」とコメントしており、国の施策により処遇改善が進んでいることが伺えます。
また、2020年1月~12月の税込年収は平均約363万円でした。この額について「満足している」「まあまあ満足している」との回答は30.9%となっています。つまり、7割弱の人は収入に対する不満が原因で転職する可能性があることになります。離職を防ぐには、更なる処遇改善を検討する必要性があるかもしれません。

管理者の年収は全産業平均並み

さて、今回の調査結果から見えて来る「今後の処遇改善の理想像」とはどのようなものでしょうか?
一つ目のポイントはキャリアパスです。2021年の年収額を職種別に見てみると、訪問系サービスの介護職員は約331万円なのに対し、訪問系管理者は約436万円となっています。
同様に通所系は職員約308万円・管理者約389万円、入所系は職員約364万円・管理者472万円であり、いずれも管理者に対しては職責や能力に応じた処遇が行われています。厚生労働省の賃金構造基本統計調査(2020年)によると全民間企業勤務者の平均所得は460万円弱ですので、訪問系・入所系であれば他産業と比較しても遜色ない水準と言えます。
まず、この「一定のキャリアを積めば、介護職は決して低所得ではない」という事実を職員にしっかりと示すことが大事です。そして、その給与水準に至るまでに必要な能力や資格、法人としての従業員評価基準などを「見える化」することで、従業員は5年先・10年先などの将来像を描きやすくなり、仕事に対するモチベーションも維持できると思います。

一時金に対する満足度は低い

二つ目のポイントは一時金(ボーナス)です。一時金の税込平均額は2020年冬が20万1000円、2021年夏が19万7000円でした。「満足」「まあまあ満足」の合計は21.6%と、本給に比べ低くなっています。本給は募集時にある程度具体的な額が示されるのに対して、一時金は、求人広告では「制度有」などの表記が多く、具体的な額は示されません。このため、職員側の「期待値」が高く、現実とのギャップが大きいことが原因のひとつと考えられないでしょうか。職員の頑張りに金銭面で応える際には、毎月の給与と一時金の両方をアップすることが一番望ましいのですが、原資などの関係で難しい場合には、一時金のアップ額を多くした方が、職員の満足感は高いと言えそうです。
西岡一紀(Nishioka Kazunori)
フリーライター
1998年に不動産業界紙で記者活動を開始。
2006年、介護業界向け経営情報紙の創刊に携わり、発行人・編集長となる。
2019年9月退社しフリーに。現在は、大阪を拠点に介護業界を中心に活動中。
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