「HP・求人広告への顔出しは嫌」は「恥ずかしい」だけが理由か
2022.4.25(月)
フリーライター 西岡一紀
スタッフ集合写真のある求人広告は反響が多い
先日、介護業界向け求人サイトを運営する会社と一緒に介護事業所を訪れ、求人広告に必要な情報をヒアリングしたり、掲載用の写真や動画を撮影したりしました。
その際、サイトの担当者は事業所の管理者に「トップに載せる写真がとても重要です。これ一つで、求人広告のクリック数が一桁違います」と説明していました。ちなみに反響の良い順にいうと、①複数のスタッフが写っている写真、②施設長などが一人で写っている写真、③事業所の外観や内部の様子だけで人が写っていない写真、④フリー素材などを使った高齢者や介護のイメージ写真、だそうです。これからもわかるように、いかに実際のスタッフが「顔出し」するかで求人広告への反響は全然違います。
考えてみれば当然のことです。介護業界に限らず、離職の原因で最も多いのは「職場の人間関係」です。求人広告のスタッフ写真でその問題が全て解決するわけではありませんが、一緒に働く人の顔が事前にわかるだけでも応募に対する心理的なハードルはかなり下がります。複数のスタッフが写っていれば「自分と同年代の人が働いている」「上司や先輩が優しそうだ」という安心感を与える可能性も高くなります。また、動機としてはやや不純でしょうが「ここに写っている美人やイケメンと一緒に働きたい!」と思う人もいるでしょう。
この様に、求人広告(や自社の求人サイト・パンフレットなど)にスタッフが顔を出すことは、反響率を高め、採用につながり、人手不足で業務過多になっている現場にとってもありがたい話のはずなのですが、実際に写真や動画の撮影となると「私は出たくありません」というスタッフが多く、人数集めに四苦八苦することが多いそうです。
「自分の職場は人に勧められない」
この理由には、もちろん単純に「恥ずかしい」ということがあるでしょう。介護現場で働く人は、どちらかと言えば性格的には大人しく、「私が、私が」と前に出るタイプの人は少ないので、致し方ない部分もあります。
しかし、以下のような理由の場合は問題です。それは「自分がこの会社・事業所で働いていることを隠したがっている」、若い人の言葉で言えば「黒歴史になっている」ケースです。自分の仕事や職場に誇りを持っていれば、キャリアとして堂々と表に出せます。しかし「介護の仕事には希望が無い」「自分の職場はブラックで人には勧められない」などと思っていれば、自分が職場の宣伝のために顔を出すのは嫌と考えるでしょう。また「もうじき辞めようと思っている」場合も、退職後も自分が在籍者として登場する可能性があるのは好ましくありませんから、顔出しはNGになります。
「求人広告に写真を載せたいから撮影させて下さい」に対して「私は嫌です」という反応があること自体は自然なことです。しかし、その「嫌です」という言葉の裏側に会社や事業所の抱える問題が隠されているケースもあります。それをきちんと把握し、必要な対策を講じていかないと、人材不足はいつまでも解消しないのではないでしょうか。

西岡一紀(Nishioka Kazunori)
フリーライター
1998年に不動産業界紙で記者活動を開始。
2006年、介護業界向け経営情報紙の創刊に携わり、発行人・編集長となる。
2019年9月退社しフリーに。現在は、大阪を拠点に介護業界を中心に活動中。