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ホーム見学時に無駄な説明をしていませんか?

2022.3.23(水)
フリーライター 西岡一紀

パンフレットの内容を音読するだけ

先日、高齢者施設を紹介するサイトからの依頼で、ある有料老人ホームのホーム長にインタビューしました。施設紹介サイトですから、ホームの立地や居室数、入居費用などの基本的な情報は既に掲載されています。サイトからの依頼は「そうした基本情報だけではわからないもの、例えば入居者のADLやQOL向上のための具体的な取り組みや、それに関わるエピソードなどを聞いてきて欲しい」というものでした。
ホームで名刺交換をしたあと、私は「介護業界の専門紙の記者・編集長として15年間経験を積んできました」と自己紹介をしました。
さて、あなたがホーム長だったら、この自己紹介を聞いて、どのような判断をしますか。普通は「介護や有料老人ホームについて十分な知識を持っているだろう。パンフレットに書いてある程度のことは理解しているだろう」と考えるでしょう。そして、限られたインタビュー時間の中で自分のホームの魅力を少しでも多く伝えるために、基本的な説明は省くのではないでしょうか。私もそれを期待しての自己紹介でした。

しかし、ホーム長はパンフレットに書いてあることを一字一句もらさず音読することから始めます。「住所は・・・類型は・・・建物は鉄筋コンクリート造・・・」。5分ほどそれが続いたところで、私は「申し訳ありませんが、そうしたことはパンフレットを読めばわかります。私が伺いたいのは・・・」と話を遮らざるを得ませんでした。
テーブルで営業担当が入居検討者へパンフレットを見せながら説明している様子

「わざわざホームに足を運んだ理由」は何か

車椅子に乗った高齢女性と介護スタッフが会話している様子
もちろん、全ての人が介護や有料老人ホームに詳しいわけではありません。基本的な説明が必要なケースもあります。しかし、その場合でも、実際にホームを訪れて話をしているのであれば、その人はホームの所在地や交通アクセスについては既に理解していると考えられます。値段も見ずに物を買う人がいるとは思えません。また、自分が入居するホームが木造なのか鉄筋コンクリート造なのかを気にする人は殆どいないでしょう。こうしたことを考えても、例え「基本的な知識を持っていない人」であっても、説明する内容は必要に応じて取捨選択されるのが普通です。契約時の重要事項説明ではないのですから。
介護や福祉に携わる人は、根本的に真面目です。真面目であるが故に資料に書いてあることも懇切丁寧に説明しようとします。しかし、今はネットで多くの情報が入手できます。それでも、わざわざ時間をかけてホームを訪れるのは、直接会ってしか聞けないこと、パンフレットやネットには載っていないことを聞きたいからです。ホーム長や営業担当など入居検討者と接する人には、「その人がわざわざホームに足を運んでまで聞きたかったことは何か」を短い会話の中から聞き出し、臨機応変に対応できる「引き出しの多さ」が必要です。
「ホーム自体には十分な魅力がある」「見学者は多い」のに、なかなか入居に結びつかない場合には、「入居検討者が本当に聞きたいことを説明できていない」のが原因のひとつとして考えられるのではないでしょうか。
西岡一紀(Nishioka Kazunori)
フリーライター
1998年に不動産業界紙で記者活動を開始。
2006年、介護業界向け経営情報紙の創刊に携わり、発行人・編集長となる。
2019年9月退社しフリーに。現在は、大阪を拠点に介護業界を中心に活動中。
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