在日外国人の介護ニーズにどう応えるか
2021.12.23(木)
フリーライター 西岡一紀
中国人留学生と楽しく会話
先日、日本で介護事業を手がける中国の方とお会いしました。留学生として17年前に来日し、現在は日本と中国双方でビジネスを成功させている方ですが、母国の肉親が要介護状態になったときに十分なサービスを受けられなかった経験から、「日本の優れた介護を中国でも提供したい」と考えるようになり、そのノウハウ会得を目的に、訪問看護やサービス付き高齢者向け住宅を運営しています。将来の中国での介護事業展開を見据え、サ高住では7名の中国人留学生を採用しています。
さて、このサ高住には2名の在日中国人が入居しているそうです。長いこと日本で生活していますが、やはり多少なりとも言葉の壁はあります。スタッフや他の入居者の何気ないおしゃべりにもすっと入っていけず、施設内でも黙っていることが多かったそうですが、中国人留学生が働き始めてからはニコニコと中国語で会話することが増えたそうです。この会社の社長は「将来は在日中国人専門の高齢者住宅を日本で運営したい」と語ります。
昔の日本の歌は歌えない
大阪市には、在日コリアン専門の高齢者住宅があります。運営者によると「日本の一般的な介護事業所を利用しづらいと感じている在日コリアンは少なくない」そうです。例えば、在日一世の場合、生まれ育ったのは日本ではありません。介護事業所でよく行われている「回想療法で昔の歌を歌う・昔の遊びをする」などのレクリエーションは、曲や遊びを知らないために楽しめません。さまざまな事情から自分が在日コリアンであることを周囲に隠しており、「昔の日本のことは知らない」と他の利用者に言い出せない人もいます。
また認知症になった場合、人によっては、後から覚えた日本語は話せなくなり周囲とのコミュニケーションができなくなってしまうケースもあります。以前、私が実際にこの高齢者住宅を見学した際には男女2人の入居者がゲームを楽しんでいました。それぞれの入居者にスタッフがついて応援やサポートをしていましたが、女性入居者には日本語で、男性入居者にはハングルで対応していました。男性入居者は認知症とのことでした。
「フィリピン人花嫁」ももう60代
このほかにも日本で生活する外国人は数多くいます。例えば、かつては若い女性が少ない農村・山村などの男性がフィリピンから配偶者を迎えることが一時期盛んに行われていましたが、あれはもう35年も前の話です。来日した彼女たちも今は60歳前後。あと10年もすれば介護の問題が発生するでしょう。「最期は祖国の言葉や食事でサービスを受けたい」というニーズが出て来ることは十分に考えられます。
今は新型コロナウイルス感染症の影響で動きは止まっていますが、留学生・技能実習生・特定技能など介護現場で外国人が就労する機会が増えていくことは間違いないでしょう。彼らの存在を上手に活用して、日本で生活する外国人向けに介護サービスを提供する、といった新たなビジネスも可能になるのではないでしょうか。

西岡一紀(Nishioka Kazunori)
フリーライター
1998年に不動産業界紙で記者活動を開始。
2006年、介護業界向け経営情報紙の創刊に携わり、発行人・編集長となる。
2019年9月退社しフリーに。現在は、大阪を拠点に介護業界を中心に活動中。
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