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「ホーム長はベテラン社員」は時代遅れ?

2021.11.25(木)
フリーライター 西岡一紀

新卒入社2年目で施設長に

今回は、施設長の育成についてユニークな取り組みを行っている事業者を紹介します。
皆さんの特養、有料老人ホームなどの施設長は何歳ですか?運営する法人の規模や施設の規模により違うとは思いますが、大体30代~50代、社歴・介護業界歴にして10年以上というケースが多いのではないかと思います。
以前、外食チェーンのワタミさんが介護事業を行っていたとき、介護事業会社の社長が「大学卒業の新卒社員の場合、入社6~7年でのホーム長就任を目指します」と私のインタビューに応えました。私が「ずいぶん早いですね」と言ったところ、「外食チェーンでは大卒2∼3年ぐらいで店長になります。それに比べたらちっとも早くありません」という返事でした。もちろん、単純に比較はできませんが、確かに外食や小売チェーン店に比べると、介護業界では施設長になるには長い時間がかかるのが一般的なようです。

ところが、大阪府内で複数の高齢者住宅を展開しているある会社では「新卒入社2年目でホーム長にする」を2019年4月以降の新卒社員に対して公約として掲げており、実際に昨年度は2名の入社2年目社員がホーム長に就任しました。
リクルートスーツを着た若くてフレッシュな3人の男女
入社2年目で施設長を生み出す秘訣について、この会社の社長は「ホーム長として必要とされる能力を洗い出し、そこを集中的に教育すること」と語ります。そして、その「必要とされる能力」とは「ホームが順調に運営される様に、利用者・スタッフ双方についてよく知り、適切にマネジメントすること」だそうです。「本来は、現場スタッフが行うこと、逆に本部スタッフがすることなど、何でもかんでもホーム長にやらせようとしていたのが、これまでの介護業界だったと思います。その結果として人材育成のスピードが遅くなっていたのではないでしょうか」

入居者の選挙でホーム長選出

投票箱に投票用紙を入れようとしている手元
次に、これも大阪市のサービス付き高齢者向け住宅の例ですが、ここは「ホーム長を社員や入居者の選挙で選ぶ」という取り組みを昨年初めて実施しました。立候補資格は「正社員であること」のみ。キャリアなどは全く問いません。

こうした取り組みを行っている理由について運営会社の社長は「本当に現場のスタッフや利用者から支持されている人がホーム長になるべきです」と語ります。立候補したのは3名。本物の選挙さながらに「自分がホーム長になったら○○を実現させる」などの公約を掲げたポスターを作成したり、入居者を前に演説会を行ったりして自分をアピールしたそうです。
「ホーム長という立場は一つの頂点なので、就任すると、その地位に安心してしまう人が出てきます。選挙で定期的にスタッフや利用者の審判を仰ぐ仕組みにすることで、常に向上心を持って職務に当たってもらうことができます」とこの社長は期待を寄せます。
「自分が施設長になれるかもしれない」という夢や希望を与えることは、スタッフのモチベーション向上に繋がります。年功序列などの硬直化した人事体制ではなく、柔軟な視点で施設長を選ぶことが、組織の活性化に繋がるのではないでしょうか。
西岡一紀(Nishioka Kazunori)
フリーライター
1998年に不動産業界紙で記者活動を開始。
2006年、介護業界向け経営情報紙の創刊に携わり、発行人・編集長となる。
2019年9月退社しフリーに。現在は、大阪を拠点に介護業界を中心に活動中。
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