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大手企業が介護業界への新規参入時に陥りやすいミスとは

2021.9.22(水)
フリーライター 西岡一紀

「本業とのシナジー」 過剰な期待は禁物

本コラムの読者には「新規事業で介護業界への参入を検討中」という方もいるかと思います。異業種からの参入企業の中には、学研ココファンなど日本を代表する介護事業者となった例もありますが、一方で夢破れて短期間で撤退した企業も少なくありません。今回のコラムでは、介護業界への参入企業が、特に大企業・有名企業が陥りやすい失敗をご紹介します。

「本業とのシナジー効果が期待できる」と新規参入企業の多くは語ります。しかし、多くの場合でこの期待は失敗に終わります。介護事業の対象となるのは高齢者の中でも80歳以上など一部です。現在、介護事業以外でこの年齢層に特化して商品やサービスを提供している企業は殆どありません。「当社は高い知名度がある」「何十万人もの顧客名簿がある」など、本業での強みや財産などが介護事業では役に立たないことが多いのです。
車椅子に乗って窓の外を見ながら佇む高齢男性
これに対し「老人ホームなどは入居者本人ではなく、その息子や娘が選ぶことが多い。企業のブランド力などが活きるはず」という意見もあるでしょう。これについては「全くない」ことはありませんが、過剰な期待は禁物です。息子や娘は「自分が入る老人ホームを選ぶ」のではありません。一流企業運営というブランド力よりも「1日でも早く入居できる」「費用が安い」「面会に行くのに便利」など、現実的な目線で選ぶことが多いのです。
「大企業ならOBだけで何万人もいる。皆自分が働いていた会社が運営するホームを選ぶだろうから、入居者募集には困らないのでは?」という意見もあります。しかし実際にある旧財閥系の老人ホーム運営会社の社長に「商社や銀行などグループ企業のOBが沢山入居するので、募集は楽でしょう?」と聞いたところ、即座に「殆どいません。以前の部下などが当社の幹部にいたりする可能性があるため『介護が必要になった自分の今の状態を知られたくない』と敬遠します」と言われました。

ケアマネ訪問などの泥臭い営業をできるか

スーツ姿の男性がパンフレットを机に広げて男性に説明している写真
老人ホームの営業は地域のケアマネジャーなどをまめに訪問し、入居者を紹介してもらう必要があります。しかし、大手企業はこうした泥臭い営業が苦手という弱点もあります。

かつて、大手アパレルチェーンが老人ホーム運営を始めたことがありました。しかし価格設定ミスなどが原因で、非常に厳しい入居状況が続きました。社員が社長に「パンフレットを持ってケアマネ訪問をするべき」と提言しましたが、当の社長の回答は「我が○○グループが、そんなドブ板営業などやるべきではない」だったそうです。同社は大量のテレビCMと新聞折り込みチラシで集客を図り成長してきました。その成功体験があるため「老人ホームもこの方法で集客できる」との思考から抜け出せなかったのです。
もちろん、スタッフ募集の際に「『有名企業なので福利厚生がしっかりしているだろう』との印象を求職者に与える」といった点もあります。しかし、それ以外の部分に関しては、有名企業のメリットが活きることが介護業界では少ないのが現実です。その点を十分に把握して参入を検討する必要があります。
西岡一紀(Nishioka Kazunori)
フリーライター
1998年に不動産業界紙で記者活動を開始。
2006年、介護業界向け経営情報紙の創刊に携わり、発行人・編集長となる。
2019年9月退社しフリーに。現在は、大阪を拠点に介護業界を中心に活動中。
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