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個人用ポストは「世間との窓口」

2021.6.16(水)
フリーライター 西岡一紀

プライバシー配慮の面からも必要

先日、私用で大阪市の庶民的なエリアに行ったとき、たまたま前を通りかかった有料老人ホームでとても素敵な光景を目にしました。その老人ホームは、コロナ禍でも特に入居者の外出を制限していないようで、ちょうど歩行車を使った一人の女性がお出かけから戻るところでした。その女性は、入り口にある個人用ポストで自分あての郵便やダイレクトメールをチェックして建物内へと入っていきました。そのポストにはひとつひとつに部屋番号と入居者の苗字が書かれていました。
マンションの入り口に設置された集合ポスト
「え?家に入る前に自分のポストを確認するのは、当たり前でしょ?」。そう思った方もいるかもしれません。しかし、老人ホームなどではそれが「当たり前」でないのです。
老人ホームに入居者個人用のポストが設置されているのは少数派です。多くの場合、入居者あての郵便物などはホームのポストに投函され、職員の手で仕分けされ一人ひとりに手渡されます。しかし、中には、「『そこから届いていること』すら、他人には知られたくない郵便物・ダイレクトメール」もあるでしょうから、個人情報への配慮という点からも好ましいものではありません。個人用ポストがあることは入居者のプライバシーの確保につながります。

投函されるチラシは「街のニュース」

また、これらのポストには、いわゆる「ポスティング」で様々なチラシが投函されます。これらのチラシは、「見てくれた人が自分の商品やサービスを利用してくれるだろう」という期待の元に配られますので、世間とのつながりが希薄になっている老人ホームの入居者にとって、「自分が1人の消費者として世間から期待されている、自分は社会の一員である」ことを実感できるツールでもあります。
もちろん、老人ホームに入居したら、以前のように店に買い物に行くのは難しくなることが大半でしょうが、チラシを通じて「前に住んでいた家の近くに、こんなにお洒落な美容院ができたのね」とか「子どもが小さい頃に家族でよく食事にいったあの中華料理店が、今年で開店50年か・・・」などといった街のニュースを知ることができます。それだけでも楽しみになりますし、昔の街の思い出話など入居者どうしで盛り上がることもできます。
多くの高齢者施設で「地域共生・交流」を打ち出しています。しかし、現在はコロナ禍で実際の地域との交流活動は全くと言っていいほど行われていません。そうした中で、数少ない「地域への窓口」の役割を果たすのが「個人用ポストとそこに届けられる郵便物・チラシ」なのです。特に、一つひとつのポストに部屋番号と苗字を書くことにより、入居者は「老人ホームの入居者」という存在から、「○○さん」という一人の人間として、世間との接点を持つことができます。チラシはゴミになってしまうことが多いため、その処分などホーム側の手間が増えることがネックになりますが、それを上回るメリットがあるといえます。
西岡一紀(Nishioka Kazunori)
フリーライター
1998年に不動産業界紙で記者活動を開始。
2006年、介護業界向け経営情報紙の創刊に携わり、発行人・編集長となる。
2019年9月退社しフリーに。現在は、大阪を拠点に介護業界を中心に活動中。
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