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入居者を運営会社で「雇用」

2021.4.27(火)
フリーライター 西岡一紀

使途に制限がある館内通貨

前回のコラムでは、「働く」をコンセプトにした介護事業所について紹介しました。これらの事業所の殆どは、働いた対価を「館内通貨」「クーポン」で支給しています。実際の金銭ですと、その管理を十分にできない利用者がいること、紛失や盗難のリスクがあること、「働ける」という身体状態だと要介護認定に影響が出る可能性があることなどが理由です。しかし館内通貨などの場合は、当然ながら使途が制限されます。「孫の誕生日プレゼントをデパートで買いたい」などといった場合には使えません。そのため、労働の対価を現金で支払っている事業所もあります。
例えば、関東地方の有料老人ホームの運営会社は、ホームのすぐ近くでレジャー施設を経営しています。自立の高齢者でも入居できるホームのため、入居者は希望すればレジャー施設のスタッフとして働くことができます。立場としては有償ボランティアとなります。
大工仕事をする高齢者男性
大阪府のサービス付き高齢者向け住宅では、入居者を必要に応じて「雇用」し、労働に対して賃金を支払っています。有償ボランティアではないので府の最低賃金以上の給与を出すそうです。
大阪は数年前に台風が直撃し、家屋の損壊など大きな被害がでました。特にこの高齢者住宅がある自治体では被害状況は深刻で、高齢者住宅も建物が一部損壊しました。そのとき、たまたま入居者の中に元建設工の男性がいました。運営会社では、臨時にこの入居者を雇用し、住宅を修繕してもらったそうです。
また、変わった経歴を持つ入居者がいた場合は、その入居者のために仕事を新たに用意することもあります。運営会社の本業は法人を対象としたテキスタイル関連製品の販売です。入居者の中に、以前デパートで外商の仕事をしていた男性がいました。そこで、彼に営業職として活動してもらうことにしました。体調などの様子を見ながらですので、実際に働くのは週に数時間だそうですが、新製品のカタログなどを持って顧客廻りなどをしています。かつて自分がしていた仕事と同じ様な仕事を任され、非常に活き活きと働いているそうです。

専門分野活かし承認欲求満たす

前回のコラムでも書きましたが、高齢者は「社会に必要とされる存在でありたい」という欲求があります。働く、特に自分が専門としている分野で働くことは、その欲求を最も簡単に満たせる方法です。
厳密には「働く」ことではありませんが、入居費用が高額な高齢者住宅の中の多くには、入居者に医師や元大学教授などがいます。彼らに入居者に向けた健康講座や文化講座の講師をしてもらうなどの取り組みも、そうした欲求を満たす手法としてよく用いられています。アメリカには有名私立大学のキャンパス内に高齢者住宅が設けられている例があります。入居者の多くはそこの大学の卒業生ですが、名門大学なので経営者など社会的に成功している人が大勢います。将来起業を目指す現役の学生に請われて、起業や経営に関するアドバイスをしたりすることもあるそうです。
西岡一紀(Nishioka Kazunori)
フリーライター
1998年に不動産業界紙で記者活動を開始。
2006年、介護業界向け経営情報紙の創刊に携わり、発行人・編集長となる。
2019年9月退社しフリーに。現在は、大阪を拠点に介護業界を中心に活動中。
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