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起業理由が「親の介護経験」は、逆に信用されない

2021.3.10(水)
フリーライター 西岡一紀

「見学した施設がひどくて」が動機

「なぜこの仕事で起業しようと思ったのですか?」。いわゆるオーナー社長にインタビューするときに、私は業種を問わずこの質問をしてきました。「子どもの頃から憧れていて…」「社会に出てから、この仕事の素晴らしさを知って…」など様々な答えが出てくる中で、介護業界の経営者だけが口にする言葉がありました。「親の介護を経験して…」がそれです。その後が「それで介護の仕事に魅力を感じて」と続くのならいいのですが、残念ながら「見学した老人ホームがどこもひどかった。自分の親を入れる老人ホームを自分で作りたくて」というケースが少なくありません。
車椅子に乗っている高齢の夫婦
あなたは、このセリフを聞いてどう思いますか?「親孝行でいい社長だ」と感じますか?
私は、相手がこのセリフを口にした時点で、「社長としては落第」と判断しています。
皆さんも一消費者として様々なサービスに接し、ときにはその質の悪さに閉口したことがあると思います。しかし、そうした場合にとる行動としては「クレームを言う(直接または間接的に)」「次回はその会社や店を利用しない」が一般的であり、普通は「自分でその事業を始める」という発想にはならないでしょう。
「見学した老人ホームがひどかったから、自分で介護事業を始めた」という社長は、ラーメンを食べに行って不味かったら自分でラーメン店を始めるのでしょうか?買った車の性能が悪かったら自分で自動車メーカーを設立するのでしょうか?そんなことはないと思います(まあ、中には大資産家でそういう人もいるかもしれませんが)。なのに、なぜ介護事業だけ、そうした起業理由を口にする人がいるのでしょうか?実に不思議です。

当人は「いいエピソード」と思うだろうが…

こうした発言は、「親の介護を経験して…というエピソードは、人の心を打つだろう」と考えてのことでしょう。聞き手が一般の消費者であれば、確かにそれも「あり」かもしれません。しかし、私が以前在籍していた新聞社の様に、購読者が業界関係者である場合には、そうした子ども騙しのようなエピソードが通用するとは思えません。もし、通用すると思ったのなら、介護業界関係者はずいぶんと見くびられたものです。その情報の受け手がプロの場合には、正直に「儲かると思った」と語る方が、よほど共感を得られるのではないでしょうか。
中には、本当に「親の介護を経験・・・」という動機で介護事業を始めた経営者もいるかもしれません。しかし、これまで介護事業やその周辺業界に携わっていたのならともかく、全くの異業種から参入して、場合によっては経営者経験ゼロで、簡単に介護事業はできるものなのでしょうか?「他社のサービスがひどいと思った」という参入動機は、「介護事業の経営なんて簡単で、素人でもできる」という介護業界を馬鹿にした発言とも受け止められかねません。
そして何よりも、そうした現在の介護業界に係る人たちを見下したような発言をする経営者の元に、他社から優秀な介護人材が集まるでしょうか?ケアマネジャーは利用者を紹介しようと思うでしょうか?自分のこれまでの働きや能力、考え方を全て否定されているのも同然なのに。
西岡一紀(Nishioka Kazunori)
フリーライター
1998年に不動産業界紙で記者活動を開始。
2006年、介護業界向け経営情報紙の創刊に携わり、発行人・編集長となる。
2019年9月退社しフリーに。現在は、大阪を拠点に介護業界を中心に活動中。
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