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「ありがとうと言われる仕事」は、コンプレックスの裏返し

2020.12.23(水)
フリーライター 西岡一紀

抽象的表現での企業PRは逆効果

 「お客様に『ありがとう』と言われる仕事です――」介護の現場スタッフを募集する広告やパンフレットには、しばしばこうした類のキャッチコピーがよく使われます。
 しかし、残念なことに、こうしたキャッチコピーを用いること自体、「うちの会社にはほかに何もアピールすることがありません」と言っているようなものなのです。そして、恐ろしいことに、そのことについては発した側(介護事業者)は全く気付かず、受け手側(求職者)だけが理解しているのです。その結果として「求人広告を出せども全く反応がない」という状況に陥ってしまっているのです。
ありがとうと書かれたボード
 「求職者に対するあなた会社のアピールポイントは?」この問いに対する回答としては「上場企業(老舗企業)で安心」「業界シェアナンバーワン」「〇期連続増収増益」「給与○○万円」「福利厚生充実」などがあります。これらについては、いずれも数字などの客観的なデータで事実をアピールできます。しかし、そうした具体的なアピールポイントがない場合は、数字などの根拠がない抽象的なアピールになります。「アットホームな職場です」「若い人が多い活気溢れる雰囲気です」などが典型的でしょう。これらは「抽象的」とは言っても、まさか社内の最年少者が30代の職場で「若い人が多い活気溢れる…」というキャッチコピーを使おうとは思わないでしょうから、ある程度は事実を反映しているといえます。

見え隠れするブラック企業の本音

 そして、そういうコピーすらも使えないときに出てくるのが、冒頭の「お客様に『ありがとう』…」なのです。確かに介護職は利用者や家族から「ありがとう」と言われることは多いでしょう。しかし、それは介護職だけではありません。飲食店や物販店のスタッフだって、バスやトラックの運転手だって言われます。極端な話、詐欺師だって、相手に詐欺だと気づかれないうちは「ありがとう」と言われます。つまり、どの職種に対しても使えるキャッチコピーであり、それを使っている時点で、求職者には「この会社には自慢できる点がないのだな」ということが見透かされてしまいます。
 また、恐ろしいことに、このキャッチからは、会社側の「お客様に『ありがとう』と言っていただける幸せな仕事なのだから、多少給与や労働環境が悪くても我慢しろ」という本音が透けて見えるのです。
 実はもう25年前になりますが、私は企業から求人広告を取って来る仕事をしていたことがあります。そのときに当時のライバル企業が求人誌で「お客様に『ありがとう』と言われる仕事特集」を組んだことがありました。そこに求人広告を出した企業は、ソーラー給湯器・住宅リフォームの飛び込み営業や商品先物取引など、見事なまでに「キツイ」仕事ばかりでした。これが現実です。
 ほかにも介護業界では「世の中に必要とされる仕事です」「誇りある仕事です」と求人広告に限らず、抽象的な表現で自分たちの存在意義を伝えようとするケースが見受けられます。これらは、第三者が言うならともかく、自らが口にしたときには「『自分たちが社会的に認められていないのではないか』という引け目やコンプレックスの裏返し」と捉えられてしまいます。抽象的なアピールなら、かえってしないほうが良いのではないでしょうか。
西岡一紀(Nishioka Kazunori)
フリーライター。
1998年に不動産業界紙で記者活動を開始。
2006年、介護業界向け経営情報紙の創刊に携わり、発行人・編集長となる。
2019年9月退社しフリーに。現在は、大阪を拠点に介護業界を中心に活動中。
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