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高齢者施設の食事に「栄養バランス」は必要か

2020.11.30(月)
フリーライター 西岡一紀

「好きなものを食べる」が「楽しい食事」の大前提

「入居者は3度の食事が一番の楽しみなんですよ」
 高齢者住宅運営者は口を揃えて言います。元気な頃のように旅行やスポーツ、趣味などを十分に楽しめない入居者にとって、単調な毎日の生活の中で数少ない変化が食事であり、それが最大の楽しみになっていることはよく理解できます。しかし、そういうセリフを口にする高齢者住宅のパンフレットやホームページに「管理栄養士が監修した栄養バランスに優れた食事」と書いてあることに対して大きな違和感を覚えるのは私だけでしょうか?
楽しい食事、ピザの画像
 「楽しい食事」が成立する要件としては「一緒に食事をする人との会話」「食事をする場所や雰囲気」もありますが、一番重要なのは「自分の好きなものを、好きなだけ食べる」ことでしょう。しかし、一方で食事に際しては「栄養バランス」や「カロリー」なども考えなくてはなりません。この結果として「食べたいものを我慢しなくてはならない」「好きではないものを食べなければならない」ということもあります。つまり、「楽しい食事」と「栄養バランス」は両立し得ない要素なのです。「管理栄養士が監修した栄養バランスに優れた食事」である時点で、「楽しみ」という大きな要素を損なっているのです。「食べることが入居者の最大の楽しみ」であると自覚している高齢者施設が栄養バランス云々と言っている時点で、どうしようもない矛盾を抱えているのです。
 もちろん、私は栄養バランスがいい食事の重要性自体は否定しません。栄養バランスが悪い食事が生活習慣病などの原因になることも理解しています。しかし、それは「将来のことを考えるならば」だと思っています。成長期の子どもや、生活習慣病が身近な存在となる中高年だから気にしなければなりません。

高齢者は自分の口であと何回食べられるのか?

 その点で言えば、高齢者住宅の入居者はどうでしょうか?彼らには残念ながらこの先多くの時間が残されているわけではありません。中には「自分の口で味わって食事ができるのはあと何回あるだろうか」というような状態の人もいます。こうした人たちが「管理栄養士が…」の食事を採ることにどれだけの意味があるのでしょうか?10年後、20年後の身体を心配する必要などどこにもありません。「その人が『食べたい』と思っている物を『好きなだけ』食べさせてあげる」。これが、高齢者施設の食事で最も必要なことなのではないでしょうか。
 また、利用者の食の嗜好の変化にどこまで気を配っているでしょうか?「高齢者だから、ご飯に味噌汁に煮物」「おやつは和菓子」と安易に考えていませんか?しかし日本にマクドナルドが上陸してもう50年が過ぎました。つまり現在の70代は、都会育ちであれば普通にハンバーガーにフライドポテトにコーラ、という食事をして来ているのです。ピザもフライドチキンも当たり前に食べてきた世代です。食生活という点で言えば、私たちと共通する体験を持ち、共通の嗜好を持っているといっても過言ではないでしょう。
「何が食べたいですか?」と聞いたのでは、入居者は食べたいものを言いません。仮に食べたいものがあっても「高齢者施設ではどうせ食べられないから」と諦めているからです。「ハンバーガーでも食べませんか?」と聞いてみて下さい。首を縦に振る人も多いでしょう。
西岡一紀(Nishioka Kazunori)
フリーライター。
1998年に不動産業界紙で記者活動を開始。
2006年、介護業界向け経営情報紙の創刊に携わり、発行人・編集長となる。
2019年9月退社しフリーに。現在は、大阪を拠点に介護業界を中心に活動中。
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